「大変です!編集長」と若い記者が駆け込んでくる。 何事かと思えば家電メーカーの大量のリコール、食品会社の偽装、英会話学校の業務停止、顧客情報の流出だと騒いでいる。 よく「毎号ネタが尽きませんね」といわれるが最近は、掲載記事に事欠かないほど事件が続発。記事を商売にしている者にとってはありがたいのだが、ブラウニングの詩のように All's right with the world! であってほしいと願う私にとってはやりきれない気持ち。しかし、嘆いてばかりいては仕方ない。事件だけでなく法改正など消費者にとって前進ということだってある。このコーナーでは消費者にまつわる様々な事件、ニュースに対するコラムを綴ってみた。
2010・5・26
意味のない栄養成分表示?
半年ぶりのコラムです。現在、健康食品の表示について消費者庁の検討委員会が議論を進めているが、はじめはエコナの安全問題からトクホの見直しに端を発したこの検討会が、先日示された論点整理のたたき台では、トクホを取得できない健康食品に間口を広げ、それをも取得できない健康食品でも一定以上の効能があれば効能効果の表示をという規制緩和の方向だった。消費者委員会のメンバーも寝耳に水という反応で、いつそのような方向に持っていかれたのか、いぶかっていた。2兆円といわれる健康食品市場。その半分以上がトクホを取れない健康食品。ネット市場では言ってはいけない、表示してはいけない効能効果のオンパレード。特にダイエットを謳った健康食品「飲むだけで痩せられる」などは口コミの9割以上が効果なかったの書き込みだ。それでも消費者の願望は「今度こそは効くだろう」とネットサーフィンよろしく健康食品サーフィン。失敗を繰り返す。早くこの不健全な市場を立て直してほしい。高齢者の年金から購入されるインチキ健康食品を追放してほしいと願う今日この頃である。
さて、今日の本題は、健康食品ではなく、栄養成分表示。これは栄養表示基準が定められているが、表示義務は熱量(エネルギー、カロリー)、たんぱく質、脂質、炭水化物、ナトリウムで、糖分や塩分は入っていない任意表示となる。炭水化物の量やナトリウムの量から換算しなければならないが、これが簡単にはできない。栄養成分表示の(100mlあたり)炭水化物10gは、350mlなら35gの糖分が含まれる。(100gあたり)ナトリウム2gのカップめん一個100gのカップめんの塩分は5gとなる。
聖マリアンナ医科大学の研究グループ発表したペットボトル症候群は「ペットボトル症候群はたくさん砂糖の入った清涼飲料水や缶コーヒーなどを大量に継続的に飲み続けることで、太りやすくなり、血糖値が高くなって、急性の糖尿病になるというものです。症状としては、『体のダルさ』や『ノドの渇き』、『トイレに行く回数が増える』などがあり、最悪の場合は、昏睡状態に陥って病院に運ばれるケースがあります」とのことだ。
独立行政法人 国立健康・栄養研究所の出した「生活習慣病予防のための食べ方ナビゲーション たべナビ君」によると炭酸飲料水(350ml)の糖分をスティックシュガー(3g)で換算すると、ノンカロリーで1本半、カロリーオフで約5本、通常のもので約12本分になるという。http://www.tokushima.med.or.jp/tokushimashi/dm/restaurant/juice.pdf
栄養成分表示をよく見ても炭酸飲料水(350ml)からスティックシュガー12本分の糖分を取っているなど読み取れない。多分知っていたら飲まないだろうという人も多いはずだ。カップめんも一個で一日の塩分目安の2分の1になるとわかっていたら食べるのを控える人も多いだろう。
糖分(砂糖に相当)や塩分(食塩に相当)表示しないのは、やはり売れなくなるということが大きいようだ。しかし、消費者がきちんと認識して摂っているなら自己責任だが、認識できない表示であいまいだからついつい多めに摂ってペットボトル症候群に陥っているのではないだろうか?
しかし、ことは健康問題に関わる。糖尿病や腎臓病、高血圧症など糖分や塩分を控えなければならない人は、もちろんのこと、子どもの時から甘い資料飲料水をガバガバ飲み、カップめんを常食のようにしたら若年で糖尿病や腎臓病、高血圧症になりかねないのである。
メーカーもせっかくお金をかけて分析し表示するものなのだから消費者にわかりやすく、消費者にとって本当に役に立つ栄養成分表示にしてほしい。メーカーの中には独自に糖分(砂糖に相当)や塩分(食塩に相当)表示を行っているところもある。やろうと思えばできるのだから。
2009・11・25
あいまいな残留農薬基準
厚生労働省は、検疫所におけるモニタリング検査の結果、丸紅株式会社や石光商事株式会社が輸入したインドネシア産生鮮コーヒー豆から基準値を超えるカルバリルを検出。食品衛生法第26条第3項に基づく検査命令(輸入届出ごとの全ロットについて検査を義務づける取扱い)を実施した。
カルバリルは、カーバメイト系殺虫剤の一種で、農薬として稲のツマグロヨコバイやウンカ、果樹・花卉のアブラムシやハマキムシ、野菜のヨトウムシやアオムシに有効とされている。
今回、検査命令の対象になったインドネシア産生鮮コーヒー豆からはカルバリル 0.04ppm(丸紅、名古屋検疫所)、0.03ppm(石光商事、神戸検疫所)がそれぞれ検出された。
カルバリルは、コーヒー豆には個別の基準が設定されていないため、一律基準(0.01ppm)が適用される。
しかし、同省では「カルバリルの許容一日摂取量(人が一生涯毎日摂取し続けても、健康への影響がないとされる一日当たりの摂取量)は、体重1kg当たり0.0075mg /日であることから、体重60kgの人がカルバリルが0.04ppm残留した生鮮コーヒー豆を生豆そのままで毎日約11.2kg摂取し続けたとしても、許容一日摂取量を超えることはなく、健康に及ぼす影響はない」としている。
5月にもスーダン産ごまの種子から基準値以上のカルバリル(0.02ppm~0.09ppm)を検出した違反例が3件あったが、これも基準値が設定されていないために0.01ppm以上として検査命令で取り締まられた。また、フランス産ブラックカラントもフルシラゾール 0.02ppm検出したために検査命令を受けた。
これらの検査命令は、平成18年に施行された「残留農薬基準値のポジティブリスト制度」(基準が設定されていない農薬等が一定量(0.01ppm)以上含まれる食品の流通を原則禁止する制度)による。
カルバリルは、残留基準は小松菜や春菊で10ppm、大麦やトマトで5ppm、小麦で2ppm、玄米やキャベツで1.0ppmと定められている。
また、フルシラゾールは、小麦やバナナには0.1ppm、りんごやなしには0.2ppmの基準値が設定されている。
ここで考えてみたいのが、インドネシア産生鮮コーヒー豆と小松菜や春菊の日常の摂取量だ。コーヒー一杯飲むのにローストしたコーヒー豆を約20g使うが、1日に3倍飲むとして60g。小松菜や春菊はお浸したしや鍋などで一回60gはゆうに摂取する。片や00.1ppm、片や10ppm。その差は千倍である。その千倍の基準値差に科学的根拠は求めにく-いだろう。
農薬の残留値をきちんと取り締まるのは食品の安全を考える上で重要なこと。
しかし、市民団体からは「健康面ではほとんど問題ないものをポジティブリスト制度だからといって0.01ppmを少々超えただけで検査命令する作業よりも優先すべき取締りがあるのではないか。上限になっている小松菜や春菊の10ppmの安全性の根拠の提示や見直しを求めたい」という声もある。
国産農産物の残留農薬検査は保健所などでわずかに検査されるだけ。ほとんどがノーパスで流通しているのが現状だということももっと知るべきことだろう。
2009・10・15
花王エコナのその後の対応
花王の食用油など「エコナ」シリーズ商品に発がん性物質に分解される可能性のある成分が含まれていた問題で、10月8日、消費者庁が特定保健用食品(特保)の表示許可の取り消しに向けた再審査の手続きに入ることを決定したが、同日花王は特定保健用食品の表示許可の「失効届」を保健所に提出した。これで現行エコナ関連商品に対する特保による審査での判定の道は閉ざされたことになる。
花王は特保を失効した現行エコナ関連商品の回収は行わず、「ご返品をご希望の方は、下記宛先に着払いにて、お名前、ご住所、お電話番号を明記の上、お送りください。商品相当額のギフト券をお返しいたします」として申し出た人への商品券による返品にしか応じていない。
現行のエコナ関連商品に対する食品健康影響評価について、食品安全委員会の今後の対応はどうなるかについては、9月4日に食品安全委員会は、厚生労働省食品安全部基準審査課長あてにジアシルグリセロール(DAG)油の生成過程において発生するグリシドール脂肪酸エステルを食用油並みに低減させる方策の検討を進め、企業に対する必要な指導を行うべきとの意見が合同専門調査会であったことを通知した。
また、9月17日に行われた第302回食品安全委員会では以下の3点について「厚生労働省から、本年11月末までに結果が提出される予定」としている。
① グリシドール脂肪酸エステル及びグリシドールの毒性に関する情報収集
② グリシドール脂肪酸エステルを経口摂取した場合の体内動態試験
③ グリシドール脂肪酸エステル及びグリシドールの遺伝毒性試験
現行の商品を手元に持っている消費者からの「エコナ関連商品は食べても大丈夫か」という質問に対し、食品安全委員会では「グリシドール脂肪酸エステルが体内に入った場合、どのように代謝され、どの程度が体内に吸収され、また排泄がどのように行われるのか、といったデータは得られていません。しかし、これまでのところ、グリシドール脂肪酸エステルが含まれるDAG油を用いて行われた各種試験等から得られた科学的知見からは、高濃度にDAGを含む食品に対して、緊急に対応しなければならないほどの毒性所見は得られていません」という見解を出している。
消費者庁が創設されて初めに起きた問題だったために福島消費者担当相は「食品 SOS対応プロジェクト」を立ち上げ、関係各府省庁や関係製造事業者からのヒアリングや消費者委員会における議論等を異例の速さで行い、エコナの特保再審査、花王に特保失効申し出までの決着を導いた。
しかし、迅速な対応は諸刃の剣でもあり、安全性の決着が付かないうちの決定なので、企業からの反発や回収がされない現行商品をどう扱っていのかという消費者の戸惑いを残した。
二次三次の被害者が拡大しかねない緊急を要する製品事故なら迅速な対応は妥当な判断だろうが、「少なくても厚生労働省からの結果が出る11月末の時点での結論でもよかったのではないか」との意見も出ており、今回のエコナのように明らかにリスクが高い事例ではない場合の対応にはもう少し慎重な判断が必要だったのではないだろうか。
2009・9・1
波乱含みのスタート消費者庁・消費者委員会
製品事故を迅速に解決したり、食の安全性を確保するための情報提供など消費者行政の「司令塔」として、消費者問題に一元的に取り組む消費者庁が1日発足した。
野党となってしまい、最後のお勤めとなった野田聖子消費者担当相と、民主党は人事に反対している内田俊一初代長官らが、看板除幕式を行ったが、混乱の中でのスタートとなってしまった。内田氏は、72年旧建設省入省。06年から昨年7月まで内閣府事務次官を務め、消費者庁の設立準備業務に当たった。
消費者庁とともに発足する消費者委員会の人事は発足まで二転三転した。消費者委員会のメンバーのひとりに上げられていた東京日産自動車販売林文子社長は急遽、横浜市長選に出馬、当選。代わりのメンバーには(元全国消費者団体連絡会事務局長)の雪印乳業日和佐信子社外取締役が選ばれた。
野田大臣から委員長に、と推されてメンバーになった住田裕子弁護士は、昨日31日に辞任を発表。野田大臣が説得に当たったが辞任の決意は翻らなかった。
住田氏は1979年東京地検検事に任官し、1989年に女性初の法務大臣秘書官。その後弁護士に転身、冤罪の草加事件を担当した。政府の男女共同参画会議の専門委員を務めているが、むしろテレビ番組の「行列のできる法律相談所」のレギュラー出演者でよく知られている弁護士。
野田氏が示した人選に対して各消費者団体からは不満の声が上がった。ユニカねっと(消費者主役の新行政組織実現全国会議)、NPO京都消費者契約ネットワーク、新しい消費者行政を創る宮城ネットワークはそれぞれ、「人選は消費者問題を十分に知っている人であること」などの声明文を発表した。7月21日に行われた参与会第三回会合では住田氏の消費者委員会代表起用について佐野真理子主婦連事務局長が質問するなど、ピリピリした一幕もあった。住田氏の辞任は突然だったために代わりのメンバーを決めずに9人で消費者委員会は発足。委員長には消費者問題の第一人者である一橋大松本恒雄法科大学院長が互選された。
しかし、15日過ぎに民主党の組閣が行われると消費者庁長官が新しく任命される可能性もあり、波乱含みのスタートとなった。
2009・7・7
消費者庁・消費者委員会の人事に「?」
注目される消費者庁長官に野田聖子消費者行政担当相が出した答は元内閣府事務次官の内田俊一氏(60)だった。消費者庁を監視する消費者委員会の委員長には住田裕子弁護士(58)を推した。当面は、内田氏は消費者庁の設立準備顧問に、住田氏は消費者委員会の設立準備参与代表に就任する。
内田氏は、72年旧建設省入省。06年から昨年7月まで内閣府事務次官を務め、消費者庁の設立準備業務に当たった。住田氏は1979年東京地検検事に任官し、1989年に女性初の法務大臣秘書官。その後弁護士に転身。少年5人が逮捕され、後に損害賠償請求の民事訴訟では無実が認められた冤罪の草加事件を担当した。住宅金融債権管理機構(現整理回収機構)の法律顧問や政府の男女共同参画会議の専門委員を務めているが、むしろテレビ番組の「行列のできる法律相談所」のレギュラーでよく知られている弁護士。
野田消費者行政担当相は記者会見で、今回の人選の理由について「他の役所に対して強く動かなければならず、(事務次官を経験した)即戦力が必要」と説明した。
これに対して各消費者団体からは不満の声も上がっているようだ。ユニカねっと(消費者主役の新行政組織実現全国会議)、NPO京都消費者契約ネットワーク、新しい消費者行政を創る宮城ネットワークはそれぞれ、声明文を発表しているが、消費者庁長官、消費者委員会の委員長および委員の人選について、共通する要望は、消費者問題に取り組んできた経験が豊富で、消費者問題を十分に知っている人であること、消費者・生活者から見て消費者目線の目を持った人物を選任することとしている。
内田氏や住田氏が消費者問題の現場に精通しているかどうかといえば、消費者問題の関連の人から見ればとてもマイナーな人たち。今回の人事は「なぜ?」という思いが強いようだ。
内田氏は消費者庁の設立準備業務に当たったわけだから事務方は精通している。消費者庁は、各省庁に措置要求や勧告も行う司令塔的な役割を持つのだが、総勢二百名程度の弱小庁が何万にも人員を抱える経済産業省や厚生労働省、農林水産省、国土交通省などに「物申す」にはそれなりの重しの効く人物でなくてはならないという意味での次官経験者というのもまだ理解の余地はありそうだ。しかし、住田氏は人権や女性の権利問題では知られているが、消費者問題となると、弁護士活動でもその実績はないに等しい。むしろテレビ出演で有名な弁護士を注目度を上げるために据えた「客寄せパンダ」的印象を受ける。
今後決定する消費者委員の人事について「消費者問題に取り組んできた経験が豊富で、消費者問題を十分に知っている人であること、消費者・生活者から見て消費者目線の目を持った人物」であってほしいと消費者団体は強く要望している。
この他の人事は次のとおりだが、人選はある程度妥当で、バランスが取れているように思えるのだが、欲を言えば、消費者専門家会議(ACAP)や日本消費生活アドバイザー・コンサルト協会(NACS)、消費者教育関連の団体のメンバーの参加があってもよかったのではないかとも思える。
【消費者庁設立準備参与】池本誠司弁護士、全国地域婦人団体連絡協議会加藤さゆり事務局長、日本生活協同組合連合会品川尚志参与
【消費者委員会設立準備参与】アサヒビール池田弘一会長兼最高経営責任者、ジャーナリスト川戸恵子(元TBS解説委員、元アナウンサー)、学習院大桜井敬子教授、主婦連合会佐野真理子事務局長、(社)全国消費生活相談員協会下谷内冨士子顧問、実践女子大田島真教授、中村雅人弁護士、東京日産自動車販売林文子社長、一橋大松本恒雄法科大学院長
【消費者委員会事務局準備顧問】金融オンブズネット原早苗代表
2009・6・30
誰もが知っているベニズワイガニ
公正取引委員会は6月15日に「日本水産」(ニッスイ、東京)を冷凍食品のコロッケのパッケージに、実際の材料はベニズワイガニなのに、ズワイガニと表示したとして景品表示法違反で排除命令を出し、農林水産省も同日、JAS法に基づき、表示の是正や原因究明を指示した。その後、ハム加工大手の「日本ハム」と製粉大手「日本製粉」(ニップン)は、ニッスイの不正発覚を受け、ソーセージやパスタの原料にベニズワイガニを使用しているのにズワイガニなどと不正表示していたことを農水省に自主的に申し出た。
それを重くみた農水省は26日、その他の会社にもベニズワイガニをズワイガニと表示したケースがないか、業界団体に注意を促す通知を出した。
松葉ガニや越前ガニなどの高級ガニはズワイガニのオスで、水揚げされる所属漁港でタグが付けられ、ブランド化されている。ズワイガニの卸売価格は、1キロ2千円程度で、ベニズワイガニの約8倍と報道された。この点だけを見れば、安いベニズアイガニを使って高級なズワイガニを使ったように偽装したということになる。しかし、実際の加工食品に使われるフレーク肉ベニズワイガニは、1,141円、フレーク肉ズワイガニ1,666円、棒肉ベニズワイガニ3,141円、棒肉ズワイガニ3.654円とそれほどの差はない。
ニッスイの主張は二つのカニは分類上、同じズワイガニ属のため、「ずわいがに」と表示しても問題ないと判断。農水省の2007年のガイドラインでは、生鮮食品は両者を分けて表記するとしているが、加工品は当てはまらないと誤解したというもの。
現在は、同じ製品を「紅ずわいがにコロッケ」として販売しているという。
一方、日本ハムや日本製粉は同省に「ズワイガニとベニズワイガニが別種とは知らなかった」と弁解しているという。
一般の人は食べ放題でよく出されるのはベニズワイガニ、高級旅館が出しているのはちゃんとしたズワイガニ、味もズワイガニの方がよいというイメージを持っている。ただ、実際の味は、どうなのかはわからないし、コロッケやソーセージ、パスタの材料として使われた時にその味の違いも明確にはわからないのではないだろうか。
しかし、フレーク肉のズワイガニとベニズワイガニの価格がそれほど変わらないのに、あえてベニズワイガニを使うのは、多少なりともコストを抑えられるという思惑があることは想像できる。
その際、蟹として同種だから表示は同じでもよいと考えたことは、それ自体には、偽装しようという意識は薄いのだろうが、蟹に対する一般の人の感覚(ズワイガニは高級、ベニズワイガニはそうでもない)を把握できていない。それは消費者志向という点で努力が足りなかったように思える。
ズワイガニとベニズワイガニと比較しても味の点でベニズワイガニが劣っているわけではないという主張も聞かれたが、だからといって、「ズワイガニ」という表示が許される理由にもならない。安くてうまい魚などいくらでもあるが、市場価格はうまさだけではないからだ。価格が同じくらいであっても同じ表示は許されない。
今回のカニ問題は、かつてのブランド牛のような「偽装によって儲けようと思った」という意識はなく「ただの思い違い」が原因なのかもしれない。しかし、どうであれ、消費者は正確な表示を望んでいる。
ところで、回転寿司で食べる「アナゴ」は「マルアナゴ」が多いのだが、分類上ウミヘビ科に属し、アナゴより大きい。「えんがわ」もひらめのではなく、カレイやオヒョウなどの大型魚のえんがわで、大きく、脂のりもよい。
「ししゃも」についても本物は世界中でも北海道南部の太平洋沿岸の一部でしか獲れない。スーパーで売っているのはほとんどがノルウェー、アイスランド、カナダから輸入されている「カペリン(キャぺリン)」で全く味も値段も違う。
「もし、本当の名前をつけたら絶対に売れなくなる」そう業者は思っているだろう。しかし、代用品にされている魚にとってはいい迷惑。ウミヘビであろうが、カレイやオヒョウだろうが、カペリンだろうが、うまいものはうまいのである。慣れてしまえば、抵抗なく食べるのではないだろうか?
そういう意味ではベニズワイガニだってうまいのだから堂々と表示してほしかったというのが今回の感想だ。
消費者もうわべの名称で騙されるのではなく、それがどういうものか、ちゃんと調べて、うまいと納得すれば、何も「ズワイガニ」でなくてもいいわけである。
消費者の強いブランド志向とその一方で「(アナゴと思って食べているのがウミヘビ、ししゃもは実はカペリンなどの)実態は知らなかった」という無関心さが偽装の温床になっていることも自覚してほしいものだ。
2009・1・15
消費者庁が難産な理由
このコーナーでも「いつも消費者の安全を見守り、何か事件が起こると緊急出動して悪徳業者をやっつけて被害者を救済する。発信された情報で同じような被害者が出ないようにする。いわば消費者の防衛基地となるべき組織」と説明した「消費者庁」。私のパソコンが文字を一発で変換できるようになるほど繰り返し記事を書いているのだが、昨年成立するかと思われていた消費者庁は、延び延びとなって未だに国会審議が始まっていない。
依然書いた「経済産業省、国土交通省などに分散する消費者関連部署の規制権限から人員、予算までかき集めるとなると官庁の役人や族議員からの強い抵抗」ばかりが理由ではない。最大の抵抗勢力となっているのは民主党なのだ。
民主党はなぜ「消費者庁」に反対するのか?それは「生活者の党」を標榜する同党が消費者のために作られる組織を自民党の手柄にしたくないからだ。民主党は昨年夏に対案として、消費者権利官を長とする「消費者権利院」を創設する法案の要綱案をまとめている。「権利院へは自治体が運営する消費生活センターを統合し、年中無休で窓口を運営する。予算規模は約1000億円、最大で1万人の組織を作り上げる」としているが、実はこの法案は消費者関連団体から「実効性が低い」とあまり評判がよくない。
国民生活局長、国民生活センター理事長などを歴任し、長く消費者行政に携わってきた全国消費生活相談員協会の及川会長は、昨年12月に行われた同協会の公開シンポジウムで「今の消費者庁をめぐって民主党は対立姿勢を示しているが、これまでPL法や消費者契約法など消費者関連法案が全会一致で制定されてきたようにお願いしたい」と述べた。
また、「消費者のための新しい行政組織」(消費者庁)を目指すために主だった消費者団体や弁護士連合会など66団体が組織した「ユニカねっと」では1月5日に衆議院に設置された「消費者問題に関する特別委員会」での消費者庁関連3法案(昨年9月29日国会へ提出済)の審議入りを求める声明を9日に提出している。
主婦連の創立者奥むめおさんが国会で質問した「生活庁」構想は46年前。消費者関連団体の悲願だった「消費者のための新しい行政組織」(消費者庁)がようやく現実となりそうな時に政党同士の意地の張り合いで廃案にもなりかねない事態を消費者関連団体は危惧している。「とにかく産みだしてほしい」というのが消費者関連団体の本音なのだ。
ただ、自民党案で成立すれば「消費者庁の総勢は200人、消費者庁に108億円、地方の消費者行政支援に80億円の予算」という規模で他省庁に言うことをきかせる司令塔になれるのかどうかは不安な点もある。成立してから消費者庁が「司令塔」として働けるかどうかは、小泉元総理がそうだったように国民の高い支持率が大きな力となる。消費者一人一人に「消費者庁は自分たちの組織」という自覚を持ってほしいものだ。
2009・1・15
元事務次官襲撃
18日に埼玉で元厚生事務次官の山口剛彦さん夫妻が刺殺され、その夕方中野で同じく元厚生事務次官の吉原健二さんの奥さんが胸を刺されて重症というニュースに大変びっくりした。それは私が記者として駆け出しの頃、少なからずも存じ上げている人たちだったからだ。
山口さんは20数年前、厚生省の年金局に勤めておられた。当時局長は山口新一郎さん、年金課長が山口剛彦さんで「ダブル山口YY」として有名だった。少々強引な局長は「鬼の山口」、穏便な課長は「仏の山口」と言われていた。二人は年金改革のために寝食を忘れて奔走。将来崩壊しない年金の基礎を作り上げた。その苦労が祟ってか、局長の山口新一郎さんはがんで現職中に亡くなった。その棺の中には苦労して作り上げた年金改革法案を一緒に納めたという話も聞いた。その局長と部下との間を取り持つ役目をしていたのが今回亡くなられた山口剛彦さん。省内で慕う人は多かった。
一方、奥さんを襲われた吉原健二さんは年金局長、社会保険庁長官も歴任したが、むしろ初代老人保健部長として老人保健法の陣頭指揮を執ったことが知られている。この当時は高齢者の医療費が無料の時代でいわゆる高齢者の薬漬けや検査漬けによる医療費高騰が社会問題化していたころだ。その医療費に歯止めをかけるために一部負担を導入、健保組合などにも高齢医療費の一部を負担させるために作られたのが老人保健法で、吉原さんは法案策定から尽力した。また、事務次官のころに介護対策検討会をつくり介護を妻や嫁の負担だけに頼るのではなく社会的な援助体制を作るべきだと提案し、それが後の介護保険制度の道筋を作った。
確かに二人は厚生行政のトップとして5000万件の年金のデータ喪失などの事件の責任ある立場にあったことは事実だが、お二人を長年見てきた私には「怠慢」などという言葉は入りようがないほどに日本の社会基盤の構築維持のために粉骨砕身されていた。厚生省では同時代にがんでなくなった吉村仁元事務次官を含めてこの4人は熱血漢として伝説的な人物なのである。
今回の事件の犯人がどういう趣旨で襲ったのかは想像の域を出ないのだが、「その時代の長を成敗する」などという短絡的な正義感でやったとしたらそれはお門違いだ。
事務次官や社会保険庁長官といっても在籍はせいぜい2年ほど。その間にこまごまとした事務的なものまで監視、指導できるものではない。まして着服などの不正は巧妙に隠されているのだから長にわかりようがない。
何か問題があるとすぐに長をやめさせればいいと考えるのは日本人の悪いところ。就任して間もない長が前の長のときの失態の責任を取って辞任することもよくあるが、これはナンセンス。むしろ新しい長はその原因をつきとめて改革する役割があるから辞任してはいけないと思う。
今回亡くなった山口さんや奥さんが襲われた吉原さんはわが身を捨てても国民のために尽力するという気概を持っていた人たちだった。しかし、国民のために死ぬならともかくもテロに襲われてとなればどんなにか無念なことだろう。
どんな主義主張があろうが、テロではゆるされないことを「5・15」「2・26」事件という歴史が証明している。
まして今回の犯人は襲った人々の功績にも不勉強だったといえる。全く理不尽な事件だ。
2008・9・4
マスコミの不勉強
福田総理が突然辞任した。消費者関連の方々は消費者庁の行く末に気をもんでいるかもしれない。しかし、かなりのところまで道筋がついているので、創設されるのは間違いないが次の総理が生活者視点かどうかで出来上がってからの力の入れ方は違うだろう。安倍元総理の「美しい日本」路線を福田氏が無視したようなことにならないように消費者庁には頑張ってほしいものだ。
ところで、福田が辞めた理由は様々あるだろうが、多分大きな要素だったのがマスコミ対応だろう。辞任の記者会見で淡々と辞任の経過を語った後、記者からの「いつも他人事のようだが」という質問に「私は自分を客観的に見ることができるのです。あなたとは違うのです」と応えた発言には苛立ちを隠せない様子だった。その会見後に記者の囲い込み取材、いわゆるぶらさがりを拒否し続けていることからもマスコミに対してこれまでの憤懣やるせない思いが窺い知れよう。
公人なのだから取材を受けるのは当たり前とマスコミは主張する。確かに総理となればしょうがないだろう。しかし、取材がいつも追及だけで、記者との心の交流がないものならそれは総理の椅子さえも投げ出したいくらいの苦痛になるはず。
マスコミは電波や誌面を使って正義の味方、国民の代弁者よろしく暴き立てる。しかし、いつでもマスコミばかりが正しいとは限らない。これまでも針小棒大な煽り報道、勘違いによる先走った報道、功名のためか虚偽のすっぱ抜き報道があったことは事実。マスコミ人が大上段に構えて物言うほどそんなにえらいものではない。
消費者問題にしても環境問題にしても近年マスコミでも取り上げる機会が増えてきた。専門誌のベテラン記者と違って大手マスコミは駆け出しの記者が取材担当になることが多いのだが、「私はよくわかりませんので教えてください」という取材をする記者が実に多いのだという。私などは「知らなければ徹底的に勉強してから取材に行け」と先輩記者に叩き込まれた方なのでこの態度がとても解せない。しかも書いた記事は正確さに欠け勘違いがあると関係団体の人が嘆いていた。
駆け出しでなくともテレビなどはディレクターが取材前に大方の路線を決め、それに沿ったコメントしか放映しないこともあって、取材を受けたためにかえって誤解を生むケースも少なくないという。「最初は大手マスコミで紹介されるからと大喜びしたけど、逆効果だった」と団体関係者は漏らす。
あまり取材を受ける機会のない団体の人でさえ不満を持つのに連日取材を受けていた福田氏の心中はいかばかりか。この点では同情申し上げたい。
テレビの偽装事件が起きた時「原因は現場の人間の人間性」と断じたテレビディレクターがいた。マスコミ全体の人間性が確実に低下しているのではないだろうか。
事実を追及することは大事だが、そこには人間としての節度があるべき。節度は最大限に正確な報道をするための勉強ももちろん入る。それができて初めてジャーナリストと称することができるのでないだろうか。私自身そのことを常に心に留めて改めて襟を正したいと思う。
2008・5・15
オリジナルの尊厳
中国で「松阪牛」と一字違いの「松坂牛」の商標登録が中国人によって申請され「松坂牛」が先に認められると本家の「松阪牛」が類似商標扱いで登録を認められない可能性もあるという記事を見てびっくりした。これまでも「鹿児島」「美濃焼」など日本の地名やブランド名を勝手に商標登録するトラブルが相次いでいる。中国人にとっては日本の銘産品の名前は高級ブランドのイメージがあって消費者をひきつけるという理由だそうだが、これは日本でもしシャンパンやベルギーチョコを商標登録するという会社があるなら社会的に許されないだろうし、ありえないことだろう。
多才の人として昭和文芸の一時期を席巻した寺山修司だが、彼の作品の中には他者の作品に酷似している例が複数存在することが指摘され、発覚当時は盗作であると厳しく批判された。
例えば、西東三鬼の句「わが天使なるやも知れず寒雀」に対し、寺山は「わが天使なるやも知れぬ小雀を 撃ちて硝煙嗅ぎつつ帰る」、中村草田男の句「人を訪わずば自己なき男月見草」に対し寺山は「向日葵の下に饒舌高きかな人を 訪わずば自己なき男」としている。
彼は高校時代から短歌に秀でていたそうだが、ほとんどこの手の句で歌人の楠本憲吉氏からは「俳句は公式や符牒ではない。ましてや感覚的な言葉のクロスワードパズルではない。(中略)君はその遊びを君自身の手で禁じるべきである」と厳しく非難されている。その後、作家の仲間入りになるきっかけとなったラジオドラマの脚本もほとんどがアメリカのラジオドラマの焼き直しだったのだという(田澤拓也『虚人 寺山修司伝』文春文庫などに詳しい)。
私自身も好きだった寺山の代表作とされる短歌「マッチ擦るつかのま海に霧深し身捨つるほどの祖国はありや」にも「一本のマッチをすれば湖は霧」(富澤赤黄男)という元歌があったことを知った時は後味の悪さをぬぐえなかった。
「パロディも含めて寺山修司の芸術だ」と彼を擁護する向きもあるだろう。しかし、問題は彼の作品が他の作品のパロディだということが一般の人にはほとんど知られていない、本人からも知らされていなかったことだろう。パロディは下地になった作品があると読み手に分かっていることが前提だ。ましてや歌の本歌とりとは意味合いが違う。
特に寺山とともに青春を過ごした世代は、今になってがっかりというファンも多いのではないだろうか。三鬼の「わが天使なるやも知れず」、草田男の「訪わずば自己なき男」、赤黄男の「一本のマッチをすれば湖は霧」も彼らの創作活動の苦渋の中でようやくつむぎだした大事な言葉ではなかったろうか。
松阪牛にしてもブランド牛として確立するには幾多の人々の苦労が積み重なっているはずだ。
デジタル化が進み、精巧なコピーができる現在、果たしてどれがオリジナルなのかがわかりにくい時代になった。いち早く発表したもの、登録を済ませたものがオリジナルとして一人歩きする可能性は中国に限らずあるだろう。
そんなことが当たり前になって人々からオリジナルに対する尊厳の意識が薄らいでいくとしたらそれは文化の喪失につながっていくような気がしてならない。
2008・4・4
消費者庁の行方
「消費者庁」という文字をテレビや新聞でよく見るようになってもその組織の意味については一般消費者の認知度はまだまだ低いようだ。
―食品表示の偽装問題への対応など、各省庁縦割りになっている消費者行政を統一的・一元的に推進するための、強い権限を持つ新組織を発足させ新組織は、国民の意見や苦情の窓口となり、政策に直結させ、消費者を主役とする政府の舵取り役になるもの―と、1月18日の施政方針演説で福田内閣総理が言明した新組織が今、「消費者庁」という形を結びつつある。しかし、「消費者を主役とする政府」なんていったのは福田総理が初めてなのに消費者にはちっとも評価されていないのはちとさみしい。
「思い起こせば『消費者庁』を提案したのは20年前の松江の人権擁護大会だった」(日弁連)、「初代会長の奥むめおが『生活庁』について国会で質問をしたのは46年前」(主婦連合会)と語るように、消費者問題専門省庁である「消費者庁」は消費者関連団体の長年の悲願だったのだ。
じゃ「消費者庁」ができたら何か変わるの?という人のために解説すると、20年前から事故があって240人以上も死んでいるガス機器事件や食品偽装、毎年約7000人の人が死んでいるサラ金やクレジットの多重債務問題、リフォーム詐欺事件、証拠金などの金融商品のトラブルなど消費者被害の情報が縦割りの弊害で、各行政でとどまっているために迅速な対応ができず、今までの内閣府では行政処分などの権限も限定されていたために被害者救済も被害者拡大防止もなかなかできなかった。
それが、消費者庁ができることによって製品事故や悪徳商法の情報が一元化、いち早く危険情報が発信されることで第二、第三の被害者防止が迅速にでき、強い権限を持たされれば悪徳商法や偽装表示などの監視・取締りが強化されることになるわけだ。
わかりやすいイメージとしてはウルトラマンの「地球防衛隊」。いつも消費者の安全を見守り、何か事件が起こると緊急出動して悪徳業者をやっつけて被害者を救済する。発信された情報で同じような被害者が出ないようにする。いわば消費者の防衛基地となるべき組織だ。
しかし、この「消費者庁」、実現にはまだまだ困難が立ちはだかっている。内閣府の消費者行政だけでなく、経済産業省、国土交通省などに分散する消費者関連部署の規制権限から人員、予算までかき集めるとなると官庁の役人や族議員からの強い抵抗が予想されるからだ。
また、ここまで主導してきた福田総理の支持率が低下して総理交代となれば泡と消える可能性もある。
「消費者庁」は消費者が安心して暮らせるための防衛基地だということを一人一人の消費者が認識し、その必要性を政府に強くアピールしていくことが実現に向け大きな後押しになることを是非、知ってほしい。
2008・2・25
一年前の冷凍食品
このコラムがずいぶん間が空いたのは一連の中国製冷凍ギョウザ騒ぎのため。この事件に関する取材と、こういう事件にすばやく対応するための消費者行政の一元化の動きが急に進んでワーキンググループの会合が連日行われ、テンヤワンヤになったからだ。
天洋食品製冷凍ギョウザから有機リン系殺虫剤「メタミドホス」が検出された事件と同じく天洋食品製「CO・OP手作り餃子」の袋から、180ppmという高濃度の「ジクロルボス」と一緒に、新たな有機リン系農薬成分「パラチオン」と「パラチオンメチル」が検出されたことについて分けて考えなければならない。
前者の「メタミドホス」は量が圧倒的に多く、何者かが、故意に入れた事件だといえるし、その犯人が捕まれば事件は解決する一過性のものだろう。しかし、被害者が出ていない後者の「ジクロルボス」や「パラチオン」、「パラチオンメチル」の方は量的に見ても明らかに残留農薬で、すぐさま問題が解決するものではないことだ。中国における農薬使用の取り締まり強化と農業従事者への使用方法の徹底は一朝一夕にできるものではないからだ。
5年前に冷凍ほうれん草から基準値を超える残留農薬がでて、日本でもそれだけについては残留農薬検査をしてきており、違反もほとんどないが、その他の冷凍食品に限らず加工食品の残留農薬検査については全く手付かずで、その体制をすぐには構築できないのが現実である。
犠牲者が多かった「メタミドホス」の陰に隠れてしまいがちな「ジクロルボス」や「パラチオン」、「パラチオンメチル」などが検出された残留農薬の問題にもっと人々は関心を持つべきだし、マスコミは報道すべきだ。
また、「メタミドホス」が検出され被害者を出したギョウザが作られた日は昨年の10月20日、その上に記載されていた賞味期限が今年の10月20日というのにどれくらいの人が気がついたのだろうか。いくら冷凍とはいえ、製造されて1年後の食品を食べることにもう少し疑問を持ってもいいのではないだろうか?
2007・11・26
「トレーサビリティ」ってなに?
弊誌「消費と生活」の読者なら周知のことなんだろが、「トレーサビリティ」とは食品がどのように生産されたのか、また、店頭に並ぶまでの履歴を明確にするシステムだが、㈱三井物産戦略研究所が、全国の20~69歳の主婦を対象に、「食品トレーサビリティに関する主婦の意識調査」を今年10月に実施したところ、「初めて聞いた」という回答がなんと70.2%というショッキングな結果がでた。
年代別に見ると、20代の認知が最も低く、60代で最も高くなっているそうだが、子育て期の20代が知らないというのは育てられている子どものことが心配になってくる。
BSE(狂牛病)があんなに世間を騒がし、日本では法律で1頭1頭の耳に黄色い札が付けられ、識別番号が売り場の肉のパッケージにもつけることが義務付けられたことを知らないのだろうか?
トレーサビリティという聞きなれない英語に惑わされているのか、食品の安全を担保するシステムとして重要なものなのに・・・。人が知らないような高級ブランド名はすぐに覚えるのだから外国語アレルギーというわけでもないだろう。この調査はインターネットで行われているのでパソコンからの知識もあるはずの人たちだ。
確かに食品履歴管理システムなどもっとわかりやすい言葉にするべきだろうが、20代で知らない人が79.4%に対し、60代は62.9%というから言葉よりも安全性に対する意識の違いなのではないだろうか。
トレーサビリティを知っている人は、「生産地」、「農薬・肥料などの使用量」、「収穫日・出荷日」、「遺伝子組み換え作物ではない」などの情報をよく見ていると答えており、実際の買い物にもトレーサビリティ情報を参考にしている。
「あなたは多少値段が高くても、食品トレーサビリティを利用して情報を調べることができる野菜や果物を買いたいと思いますか」の質問に対しては、トレーサビリティ情報を調べることができる青果物の購入意向を聞いたところ、45.8%の人が割高でも買いたいと回答している(実際の購入行動はもっと低いかもしれないが)。
安全性について関心が強く、安全なものをほしいと思うならそういう知識の吸収にも心を配らないと感情だけでは安全性は確保できない。ほとんどの消費者がトレーサビリティに対して熟知したなら生産者や加工業者、流通は安全性に対していい加減なことができないと今よりもっと襟を正すだろう。
先日ある場所で消費者関連担当者を対象に講演を行ったら、懇談会で行政担当者が「『コンプライアンス』という言葉はわかりにくいから日本語で言ってほしかった」と語った。コンプライアンスは日本語なら「法令遵守」と訳されているが今ではもっと広義の意味で法律だけでなく市民ルールや人間としての倫理観までを示す言葉として定着していると思っていた私は少しがっかりした。
「トレーサビリティ」や「コンプライアンス」が早く常識として定着するような社会になることを望みたい。
2007・10・30
表示期限の見直し
前回のコラムで
―伊勢には「御福餅」というそっくりの商品があって200年の歴史があるそうだから「おか福」とか「赤餅」とかとは一線を画するものだろうが、赤福に比べて二級品というイメージが地元では根強かったという。しかし、今回の「赤福」事件で見直され、注文が殺到しているのだという。―
と記述したが今日、①製造翌日の日付を印字する「先付け」を行い、消費期限をずらした②重量順に「砂糖、あずき、餅米」としなければならない原材料表示を「あずき、砂糖、餅米」とした―などの疑いで農林水産省東海農政局と三重県は、「御福餅本家」(三重県伊勢市)に立ち入り検査に入った。私自身 「もしや」と思っていだが、赤福事件で売り上げと5倍という栄華も一瞬となってしまった。「先付け」については、遅くとも1980年ころには行っていたというからそれを隠してここぞとばかりに売り込んでいたのは罪が深い。
辛明太子、名古屋コーチンに続き、比内地鶏、料亭「船場吉兆」のプリンやケーキなど伝統的な土産品が偽装事件を起こしている。「これは氷山の一角」と思っている消費者は多いのではないだろうか。
有名な土産品やブランド食品に人々が群がるようになって大量生産大量消費が行われるようになると大量の売れ残り、廃棄物が出ることになる。消費期限や賞味期限はある程度余裕を持たせているからこれを再利用したり、日付を延長したい気持ちはわからぬでもない。
しかし、表示する期限は自社で決めるルールである。それを客が信用する。自社で決めたルールを破るのは客に対する裏切りであり、自分たちの首を絞める行為なのである。はじめから期限の日にちを、安全性を確認した上で申請し、今よりも数日伸ばして表示したからと言って文句をいう消費者はいないはず。
「こんなに期限が長くては客は買いたがらない」という言い訳をした会社があったっが、それは売る方の感覚。消費者は期限が先の日付の商品の方を買う傾向が強い。科学的に証明できるのなら構わないと多くの消費者は答えるだろう。
新鮮さをアピールするために期限を短くして大量に売れ残りを出し、食品を処分しなければならないのならそっちの方をもったいないと思う人が多いと思う。ただ、期限の延長をするために化学的な保存料を多量に使うことがあってほしくないが・・・。
2007・10・19
300年の伝統も一瞬
「編集長、大変なことになりました」編集者の声のトーンが下がっている。
「今回のワイド特集で賞味期限を取り上げ、消費者の過剰意識は食品の無駄を生じることになるから、きちんとした科学的根拠があれば期限の延長見直しがあってもいいのではないかという論点で書いたのですが、赤福がこんなことを起こしたことで、消費者はますます過敏になってしまうのでは。タイミングが悪いなあ・・・」
ニュース報道によると出荷・配送時に残った「赤福」を引き上げて冷凍保存し、加熱・解凍して新たに製造日を付ける方法で最大約1週間、製造日を延ばしていた。また、「むき餡、むき餅」と社内で呼ぶ餡と餅を分離した再利用も行っていたという。
大学時代の友人が三重県出身だったこともあって帰省のお土産で赤福はおなじみだった。「生菓子で固くなっちゃうからすぐに食べてね」と急かされて食べたことを思い出す。普通は餅の中に餡が入っているのに餅の上に餡が乗せてあって木のヘラみたいのですくって食べるこの餅は物珍しさもあって上品なこしあんはとてもおいしかった。
しかし今回の事件発覚で売れ残りの再生は30年前から行っていたことがわかった。もしかしたら私自身もその再生品も食べたかもしれない。
伊勢の赤福本店へも行ったことがあるが、店の奥でおばさんたちが忙しく実演製造を行っており、店は客であふれんばかりだった。この店だけで売っていれば今回のようなことはなかったはずだが、デパートや駅で大量に売られるようになって売れ残りも大量に出るようになったのがこの事件の背景にある。3年間で605万箱の売れ残り再生がされ、全体の18%というから収益の約2割はこういう不正で稼いでいたことになる。
消費者を裏切るその報いは大きい。それが歴史があって企業の規模が大きければ大きいほど非難の声は大きくなる。「赤福」関係者は肝に銘じてほしい。
浜田典保社長は、はじめ「店頭から回収した商品を冷凍して販売したことは一切ない」と全面的に否定、その後、「商品管理をきちんとするようにとの意思が現場に届かなかった」と経営陣は知らなかったような弁明を行った。これについては、言語道断。知っていても知らなくても経営陣の責任を免れるわけがなく、現場をよく知らない経営者はそれだけで失格だ。
子どもの頃、花登筺原作、主演十朱幸代さんのTVドラマ「赤福のれん」というのを見たが、「おか福」とか「赤餅」どかのニセモノを販売する会社に対抗する健気な姿を描いたものだったのに、自分のところがニセモノ商売しては話にならない。
ところで、伊勢には「御福餅」というそっくりの商品があって200年の歴史があるそうだから「おか福」とか「赤餅」とかとは一線を画するものだろうが、赤福に比べて二級品というイメージが地元では根強かったという。しかし、今回の「赤福」事件で見直され、注文が殺到しているのだという。
300年の歴史だろうが、お土産日本一の販売実績だろうが、そんなものは不正一つで吹っ飛んでしまうことをすべての企業が学んでほしいのだが・・・
2007・9・19
デンマーク人の選択
食の安全性を担保する方法として、いち早くトレーサビリティのシステムを取っているデンマークに視察旅行に行ってきた。日本には主に豚肉やチーズが輸入されているが、どちらの工場でも説明を行った担当者はトレーサビリティのシステムがIC技術の導入などによって正確に稼働していること、工員を含めて工場内の清潔さに努めていることを強調していた。印象的だったのはそういうルールをしっかり守っているという誇らしげな顔だった。
ヨーロッパの町並みは都市計画によって建物の高さや色が制限され、整頓されている。また、デンマークを含め北欧の各国は高福祉、男女平等、家事分担、労働時間の短縮など進んだ国が多い。「なぜ他の国より進んでいるのですか」と聞くとガイドのキム氏は「筋を通す人が多いから」と答えた。肉体労働が減り、女性でも同等にできる仕事が増えた現在、女性が働くのは当たり前、それならば家事を分担するのが当たり前というのが「筋」なのだそうだ。
その結果、家庭の収入は倍へ、サラリーマンの労働時間は法律で所定内労働時間を週37時間へと短縮され、豊かで余裕ある社会が実現した。
食の安全性でもトレーサビリティのシステムはその「筋を通したこと」を証明するものであって、トレーサビリティのシステムでチェックをされるからルールを守らなければならないと思う日本人とは少し感覚が違うような気がする。
日本人とデンマーク人が大きく違うのは「自立」の時期。最近、本当の成人式は30歳だとかサラリーマンになっても親のすねをかじる人たちがパラサイト族とよばれ、結婚式や家を購入する時に資金を親に出してもらう人が多いように親への依存度が強いのが日本。対してデンマーク人は18歳から20歳の時に親の家を出て独立する。学生であってもそれは同じで、教育費が大学まで無料で、その上、大学生は月7万円が国から支給される。加えて月7万円のローンが組めるので暮らしていけるわけだ。結婚式や家を購入する時に資金を親に出してもらう習慣もなく、医療費や老後の介護は国が負担するので、親たちは貯金することなく豊かな暮らしができる。子どもにも親の扶養や介護の負担はない。お互いが依存しあう日本とお互いが自立しているデンマークの親子関係。「どう生きるか」を10代のうちに突きつけられてしまうデンマークでは一市民としての「筋を通す」ことを早くから意識して育つようだ。
ただ、医療費、介護費、教育費が無料で生活の不安がない分、税金は所得の50%以上、消費税は25%と高い。しかし、一部の富裕層を除いて多くの国民はこのシステムの維持を望んでいるのだという。
一方で、デンマークでは親子関係が日本ほど親密でないので連れ合いを亡くし一人になった高齢者が寂しさの余り自殺するケースも多いという。キム氏がうらやましがる日本の親子関係も時代が進むにつれ希薄となってきており、病気や生活苦での高齢者の自殺も多い。
デンマーク方式の選択は、550万人、北海道の半分の面積(山がないので実際の耕地面積は広い)などの条件があって可能だったことは否めないが、そういう社会システムがきちんと整っている国の人々のコンプライアンスは容易に信瀬できる。安全性を守る最も重要なポイントは、その食品に携わる人々の「筋を通す心意気」なのだと強く感じた旅だった。
2007・8・30
出産難民
「今月29日、奈良県橿原市の妊婦38歳が救急車で搬送中、9医療施設に拒否され、約1時間半も受け入れ先が決まらず搬送中に破水、その後、軽乗用車と接触事故を起こし、通報してから3時間後に着いた搬送先の大阪府の高槻市の病院で、胎児の死亡が確認された」というニュースがテレビで流れていた。「ああ38歳か・・・これが最後の出産のチャンスだったかも」同じ女性として同情の念を強く持った。
女性は、午前2時44分ごろ、橿原市内のスーパーマーケットで買い物中、「下腹部が痛い」と訴え、同居の男性を介して119番通報。10分後に救急車に運び込まれた。奈良県の中和広域消防本部が同県立医科大に受け入れを要請したが、「手術中のため不可能」と回答。その他の病院からも受け入れは無理と言われたため、大阪府内の産婦人科などに要請したが、いずれも「処置中」などを理由に断られ、10カ所目で約40㌔離れた大阪府高槻市の高槻病院が受け入れることになり4時20分ごろ出発した。
走行中の5時2分、女性は救急車内で破水。一刻を争う中、救急車が赤色灯をつけてサイレンを鳴らし、赤信号の交差点に進入した際、左から来た軽ワゴン車とぶつかった(5時10分ごろ)が、女性らにけがはなかった。別の救急車で午前5時46分ごろ病院へ着いたが、流産による死産が確認された。
高槻市消防本部によると、女性は妊娠20週目だったというが、かかりつけの医者はいなかった。奈良県の周産期医療搬送は、かかりつけ病院が県内の2病院に連絡、受け入れ先を探すが、流産した女性はかかりつけ医がいないため、消防組合が受け入れ先を探した。消防組合が一般の救急を原則的に受け付けない高次救急病院に要請したという不備もあった。大阪府和泉市府立母子保健総合医療センターは「事務レベルで断った。通院患者や病院からの転送だったら受け入れていた」とコメントしている。
昨年8月には、同県の大淀町立大淀病院で、分娩中に意識不明になった妊婦32歳が転送を奈良県と大阪府内の19病院に断られた末、約60㌔離れた国立循環器病センター(大阪府吹田市)に運ばれ、約1週間後に死亡している。これを受け、奈良県では、母体・胎児の集中治療管理室(MFICU)を備えている病院が、県立医科大学付属病院(橿原市)と県立奈良病院(奈良市)の2カ所だけため、「総合周産期母子医療センター」を来年5月に設置。母体や新生児の救急搬送に対応する予定だった。
こういうケースは奈良県だけの問題ではない。出産や乳幼児に関する医療は、日常業務の激務や医療事故などの対応など大変な割には医療報酬が少ないという、「苦労だけが多く実入りの少ない分野」として医者から敬遠されている。近くで子どもを産む病院がない、緊急の時に受け入れてくれる病院がない地域は近年急速に増えてきている。妊婦はただでさえいろんなプレッシャーを抱えているのに肝心な安心して産むところがなければ、どうして少子化に歯止めをかけられようか。
舛添厚生労働相は、29日行われた、事務引き継ぎの挨拶の中でこの事件にも「残念なことが起きた。省全体で取り組んでいくべきテーマだ」と言及。また、与謝野官房長官は30日の記者会見で「なかなか出産できる場所や流産を食い止める所が見つからないのは日本の医療制度として欠けているところがある。大変残念なことが起きた」と述べたというが、国は本気で取り組まないかぎりこういう不幸な事故は防げないことを肝に銘じてほしい。
2007・8・29
ネットカフェ難民
興味はあってもまだ行ったことのないネットカフェだが、そこに常連的に寝泊まりするいわゆる「ネットカフェ難民」は存在数ベースで約5400人と推定されることが厚生労働省の「住居喪失不安定就労者の実態に関する調査の概要」でわかった。
調査によると、ネットカフェ等をオールナイトで利用する人は、全国で1日当たり約6万900人と推計。利用頻度を聞いたところ、「週五日以上」が17.8%、「週3~4日」が20.1%だった。利用理由は、「パソコン等を利用するため」が52.8%、「仕事や遊び等で遅くなり帰宅がおっくう」が27.8%、「ネットカフェ難民」と称される「住居がなく寝泊まりするために利用」は7.8%だった。そのうち非正規労働者は約2700人(短期派遣労働者約600人、短期直用労働者1200人を含む)、正社員約300人、失業中が約1300人、仕事を探していない無業者も約900人と推計した。
オールナイト利用者は20代が51.2%と多かったが、「住居喪失者」(ネットカフェ難民)は、20代26.5%と50代23.1%が多かった。これまでは若者のネットカフェ難民の報道が中心だったが高齢者にも広がっている実態は驚きだ。若者はいわゆるフリーターなのだろうが、4、50代はリストラで職場を追われ、定職につけない人たちが多いという。
ネットカフェなどは、1時間200円前後で利用できるところが多く、一晩過ごしても1500円程度。インターネットで短期の仕事を探す人が多く、「住居喪失者」にとっては命の綱といった場所になっている。
ネットカフェ難民といわれる人の実態はホームレス。日雇いの仕事が見つかればいいが、その仕事にもあぶれ、体調を崩したらもう後のないその日暮らしだ。
厚労省職業安定局は「住居のない不安定就労者の数が、多いか少ないか、意見は分かれるところ。しかし、就職していないために住居を持てず、住所がないために就職できないという悪循環があるのは確かで、これを絶つための支援を行っていく必要がある」と話しているが、こういう労働者が存在していることはセーフティネットも再チャレンジも満足に働いていない証拠だろう。
一方で、「24時間営業のそういう場所ができたからネットカフェ難民も出てきたんだ」と避難する人もいる。インターネットカフェやマンガ喫茶の業界団体日本複合カフェ協会(JCCA)によると、深夜にネットカフェを利用する人の中には定職に就くことが難しい人もいることは認めており、地域によってはその数が多いこともあるという。ただし、これを大きな社会問題だとする見方には疑問を投げ掛けるとともに、「お客様は難民ではない」と強調。「ネットカフェ難民」という言葉の使用を止めてほしいと訴えている。
昔は木賃宿という低料金の旅館があったが、それにネットカフェがとってかわっているだけ。働きたくても仕事にあぶれ、悪循環に陥っている人は昔も今も確実に存在している。最近問題のワーキングプアの問題も含め、労働意欲のある人がきちんと普通の生活ができ、救われる国が美しい国なのではないだろうか。
2007・7・30
ダンボール入り肉まん事件
中国産の安全性が疑問視される中、北京テレビの情報番組『透明度』の潜入取材という北京市の露店で、肉まんの材料にダンボールを6割、肉4割で混ぜ合わせた『ダンボール入り肉まん』は、日本ならず世界に大きな衝撃を与えた。ダンボールを苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)に浸した水で脱色して紙をボロボロにし、ひき肉と混ぜ合わせた映像と経営者の「本物の肉まんの数分の1程度のコストで製造でき、1日1000元の儲けを得た」とのコメントは何回も放送で流された。
しかし、その後、この段ボール肉まんは北京テレビのスタッフが出稼ぎ労働者らに金を払い作るように指示を出した、いわゆるやらせ撮影であったことを同テレビ局関係者が明かし、謝罪。北京市内の当局はやらせを行ったとされる臨時スタッフを司法処分、その番組に携わった3人の責任者を免職などとする処分を行った。
今回のやらせ報道についてテレビ制作会社同士の熾烈な視聴率競争がその背景にはあったなど言われたが、一方で、中国の新華社通信は、一般市民はダンボール入りの肉まん報道についてやらせだったという政府の主張を信じていないと伝えた。
さて、このダンボール入り肉まん事件をどう見るか。確かに放映された映像は見てみるとわざとらしくやらせ撮影という気もしないでない。では北京テレビがなぜそういう映像を流したのか?視聴率競争だけだとしたら何と低能なテレビ局なのだろう。しかし、中国のテレビ放送は国営で放送内容にチェックが入ることは当然である。にもかかわらず、放映されたのは中国政府当局の何らかの意図(食品業者への警告など)があったのではないだろうか。しかし、放映後あまりの反響ぶりに驚いてあわててやらせ報道だったということを公表したというところではないだろうか。
いずれにしてもやらせ報道公表が中国の食品の信頼を回復してはいないし、食品の安全性ばかりでなく、報道や政府に対しても不信度が増したことは間違いない。
中国の安全性問題については9月1日発行号「消費と生活」で詳しく取り上げるが、世界中から非難されたことが一朝一夕に改善するとは思えない。かといって私たちの身の回りには中国製品があふれ、もしも輸入がなくなったら生活ができない事態まで来ている。中国製の安全性確保には中国政府・中国商品を扱う企業・日本の行政へ安全性チェックなどの徹底を地道に継続的に消費者が要求してプレッシャーを与えていくしか手がないようだ。
2007・7・4
田中社長の幸せとは?
食品加工卸会社ミートホープの田中社長が指示していた法律違反は、不正競争防止法違反とJAS法違反になるそうだが、モラル違反を上げれば、従業員がどう考えても使えないと判断して捨てた肉を社長の指示で拾い原料にしていた、雨水で肉を解凍していたなど次から次へとびっくりするようなことが数限りないほど分かってきている。
「水道代を節約しなければならないほど会社は困窮していたのか」と思い田中社長の「消費者が安いものを求めるのが悪い」との発言にも少し、心が痛んだ。
しかし、週刊誌などが伝えるところによると、田中社長の自宅は3億円の豪邸で、妻の退職金が8000万円、役員報酬が5300万円と聞くと???という気になってきた。
田中社長が不正をしてでも手に入れたかった幸せというのはこういうものだったのだろうか。確かに安売り合戦の中で生き延びていくのは大変な苦労があるだろう。だからと言って不正をしてまでも生き延びたり利益を上げることに田中社長は喜びを感じていたのだろうか?
一方、田中社長の肉を原料としていたメーカーにも責任の一端がある。「全く知らなかった」としらを切りとおせるものだろうか。もし、牛肉100%でないことが、わからなかったとしたら食品業者としてはプロ失格だろう。やはり事件の根源には業界の慣例、業界だけでまかり通る常識があったように思える。
しかし、「消費者が安いものを求めるのが悪い」というのも一理ある。冷凍食品は4割引きでしか買わなくなっているため、実質値下げになっているし、安いものを買いながら「牛肉コロッケ」という高級志向というのも矛盾する。そこに無理が生じ、何かのからくりが生じるだろうとの考えも及ばない。
コロッケぐらい豚肉でも鶏肉でも構わないはずだ。「ちゃんと表示されていればそりゃ豚肉でも鶏肉でも構わないわよ」と周りの主婦は口をそろえていう。これからは無理な高級志向より正直な普通の素材の商品が求められていくのだろうか。
最近の中国商品の問題にも同じことがいえる。どこまでも安く、しかも品質は確保せよというのはわがままなんだということをもう消費者は気づかなければならない。安いものは安いなりの理由があり、安全性を確実に確保するにはそれなりのコストが必要だ。
安全な良質なものが食べたいのなら信頼できる企業を選び、その企業が不正をしないでもいいような適正な価格で商品を買うしかない。
一律にすべての企業、商品を信用できない。もはや事態はそこまで来ているのかもしれない。
2007・6・28
クレジットの過剰与信
「脳腫瘍による精神症状のある母親が約5年半の間に呉服の販売会社6社から契約数114件、売買代金7400万円もの大量の呉服を次々に販売され、支払不能に陥った」という体験を下関に住む当事者の息子さんが、6月26日に主婦会館で行われた割販法改正緊急シンポジウムの席で怒りを込めながら語った。7400万円のうち、クレジット契約が50件、総額2900万円だったという。女性は64歳で2年前までは夫の経営する会社で約20万円の収入があったがそれ以降は年金5万円の収入。なぜこのような多額のクレジット契約ができたのか、不思議だ。
女性は契約時の状況をほとんど覚えておらず、店の店員の呼び出しがあったり、家に迎えに来て展示会場に連れていかれて購入させられたという。
16年6月の時点で支払いが困難だとの申し出でセントラルファイナンスの12契約のうち6契約を120万円で一括返済、残りを189万円の分割手数料を乗せ934万円のリニューアルローンとした。同社はこのリニューアルローンを個人信用情報の収集・管理・提供・開示を行うCICの報告していなかったため、12契約のローンを完済した情報だけが他のクレジット会社にも行くことで、その後どんどんクレジット契約を組まされてしまうこととなったという。CICが機能しなかったわけだ。
最近この手の高齢者を狙った高額な商品を次々と契約させる次々商法が問題になっている。多くのケースがクレジット契約を結んで「月々たったのこれだけでいいから」ということで契約を促していた。全国の消費生活センターに寄せられた次々販売の被害者数が04年7,194件、05年10,086件、06年7,564件とここ数年多くなっている。
また、約230万人といわれている若者や中高年の多重債務問題もクレジット会社が審査する与信が不十分というのも一因だといわれている。
割販法改正では悪徳業者が契約を取り消された場合、クレジット会社も既払金を返還するなどのペナルティを負うことや年収の3分の1を超える契約はできないなどの新しい規制を盛り込もうとしている。
先ごろサラ金やクレジットのキャッシングなどの上限金利が引き下げられたが、これからの割販法改正や特商法改正を加えることで消費者被害がさらに減っていくことが期待されている。
息子さんは「母に死なせたくないから私は闘う」と述べたが、多額の負債を抱えた家族の苦しみはこれからも続くだろう。クレジット契約以外の代金は現金決済だろうが、それも数千万円を超えている。
それにしても今は法律内で守られているものの、販売会社6社で契約数114件という状況は異常で、販売会社もクレジット会社もおかしいことは十分に認知していながら売りつけていたはずだ。両者がグルになっていたとしか思われない。クレジット会社が悪徳業者の片棒を担いているといわれても仕方ない。
そう言われないようにクレジット業者はクレジット契約の与信をしっかりと適正に行い、クレジットが使える加盟店に悪質業者がいないかどうかのチェックをしてほしい。
イギリスでは加盟店の起こしたトラブルの責任をクレジット会社がそっくり引き受けることで「「クレジット加盟店=安心」という信頼を勝ち得てきているという。日本でもそうであってほしい。
2007・6・22
救えない虐待死
17年の児童の虐待死は56人あり、そのうちの11人は児童相談所がかかわっていても死に至ったことが、「児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会」が発表した死亡事例検証結果でわかった。小学生の子どもが虐待で児童養護施設に保護されているにもかかわらず、生後二ヵ月の乳児の虐待死を食い止められなかったケースもあった。他に保育所など関係機関との接点があったのに対応されなかったケースも23件あり、関係機関は対応の必要はないと判断していた。
56人の虐待死の内訳は「身体的虐待」が44人と最も多く、食事を与えないなどの「ネグレクト」(育児放棄)が7人など。加害者は実母38人が圧倒的に多く、実父11人、実母の交際相手2人、継父と継母各1人と意外に少なかった。実母では育児不安やうつ状態にある人が目立った。
また、心中についても調査したが、児童19件、30人が死亡した。過去に親子心中未遂を起こしていた母親が子供を殺害した事例があり、厚労省は心中未遂経験者を「リスクが高いケース」として対応するよう「虐待対応の手引き」を改訂、周知するという。
子殺し、親殺しのニュースを私たちはいつまで聞かなくてはならないのだろう。世の中ほしくても子宝に恵まれない人もいるのに、何の故あって虐待をするのか。虐待をした親たちも子供が生まれた時にはその子の誕生を人並に喜んだのだろうか?もしそうならその後、虐待に走らせたものは何なのか。その点の究明もしてほしい。
今年も児童相談所がかかわっていたにもかかわらず、多くの子どもたちが死んでいった。保育所なども虐待死するまで親を止められなかった。
確かに虐待相談数はウナギ登り、職員の数は増えない現状で児童相談所ばかりを責められるものではない。保育所だってそこまで手が回らないこともあるだろう。
しかし、子どもが死んだ後で「私がもっと積極的に動いていたら」と反省した職員も少なくなかったはずだ。また、「おかしいおかしいとは思っていた」などとテレビのインタビューに答える近所の住民もいる。
皆が違和感があるのに個人のプライバシーを優先などと言って一歩踏み込めないでいる。昔はプライバシーより子どもの命と考えていたおせっかいなおばちゃん、おじちゃんが多かったのに・・・。
死んだ子供は二度と微笑むことはない。私たち大人は他人の子であれ、すべての子どもに対して何らかの責任を負うべきだし、そう意識しながら生きていきたいと思う。
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